ナイトウです。
かなり前の話ですが、
僕がアニメの背景美術を描く
バイトをしていた時に、先輩に
こんな課題を出されたことがありました。
「夏だとわかる入道雲を描いてください。」
「入道雲以外も描いてよいので、
一枚の絵として描いて出してください」
そんな課題を出されて、
僕は何の疑いもなく入道雲を描いたわけですが、
先輩にこんなダメ出しをされました。
「これは入道雲かもしれないけれど、
夏かどうかわからないよね。
手前にひまわりとか入れたら
また変わったんじゃない?
アニメというのは、情報量が少ないからこそ、
見た瞬間に印象が伝わらなければならない。
「入道雲 夏 イラスト」で検索すると
わかりやすい雲とひまわりが出てくるでしょう?
極端に言えば、それくらいわかりやすくていい。
情報量を詰め込むのはその後だよ」
そんな風にして、入道雲の描き方の解説とともに、
「アニメの記号化」という、相手に伝える印象の
シンプル化について指摘を受けました。
これを読んでいるあなたも是非、
一度「入道雲 夏 イラスト」
でgoogle検索をしていただきたいわけですが、
相手に印象を残すということは、
「何を残して、何を残さないか?」
ということを突き詰めた結果、
最終的に相手にイメージを伝える手段
だと今でも思うんです。
仮に、クライアントから
「入道雲を描いてほしい」
と言われたとしても、
そのクライアントが本来求めているものが
理解できなければ、ただ言われたとおりに
「入道雲を描く」
という作業者になってしまいます。
しかしフリーランスのクリエイターというのは、
クライアントが認識してない、
なんとなく思っていることを形にすることが
仕事だったりする、と僕は考えています。
ですから、
「クライアントの言葉=ほしい成果」
とは限らないこともあるはずです。
昔、先輩がこんなことを言ってました。
「背景を早く描いたり、
クオリティをあげるのはそんなに難しくない。
模写をたくさんすればよいから、
ただうまくなりたいなら模写をすればいい。
でもそうやってうまくなった子が
現場で使えるか?というとそうではない。
現場で融通が利いて、頼れる子というのは、
言葉にしていないけど、こっちが描いてほしいと
思っている部分を自分なりに付けたして描いてくる子だよ。
そーいう子じゃないとこの業界は残れない。
絵がうまくなるのはそのあとでいい。
だから印象を大事にしてほしい。
そーいう意味でこんな課題をだしたんだよ」
と。
(当時を思い出して書いてます。)
これは別にアニメの背景だとか
そういうのは関係ないと思っています。
映像でも、デザインでも、
同じことが言えて、
表現する上で
「どこにポイントを置くか?」
がすごく重要です。
僕らクリエイターは
クオリティという部分にどうしても意識を置きがちです。
ですが、クライアントの気持ちを汲み取ったうえで、
「何を残し、何を残さないか」
をきちんと整理整頓していく必要があります。
言葉に出してないから、
「やってはいけない」
というのが一般的な人の行動パターンかもしれません。
ですが、依頼者が言葉に出せないからこそ、
僕らがそれを汲み取り、
実現してあげるという、
「思いやり」はいつの時代でも
持っていてもよいのではないでしょうか。